恋とくまとばんそうこう



「ああっ!見て!やっぱり本当なんだよぅー!」

外野が、騒がしい。

今日も金網越しの黄色い声を出来るだけ意識的に遮断し、ボールが唸る音に耳をすませる。

取って、

握って、

投げるっ!

ひたすらひたすら、繰り返す。

びっくりするぐらい、集中出来た。

今までの葛藤はなんだったのか。

片手に持ったフラフラする程の重い石を、思い切って飲み込んで腹に収めたら重心が定まった…そんな妙な感覚。

俊は心おきなく練習に没頭した。


監督の声と一緒に笛がなり、息を吐き出して休憩に入りる。
気持ちいい汗を拭った時、ふといつも聞こえる合唱が止まった。

「滝井ー、すげぇ騒ぎになってんなぁ。」

囃し立てる仲間にうわの空で曖昧に返事をし、各自バラバラに聞こえ出した歌に、俊は腹の底の大きな大きな石にドンッと力を入れ、スッと見上げる。

始めて、堂々と顔を上げ、窓際に立つ彼女を視界に捕まえた。

少し距離はあるが、彼女が口を開け狼狽しているのが分かる。

目がバチっと合った瞬間、俊は周りの喧騒など綺麗さっぱり忘れてしまった。

空と、校舎と、そこにぽつんと彼女がいる。


俊は胸いっぱいに空気を吸い込んだ。

重たい石をあの場所まで届ける勢いで、力いっぱい、全力で叫ぶ。



「逃げるなよ!待ってろ!」




彼女は目を丸くして放心し、ズルズルと力を失うように窓から姿を消した。

…ありゃ、

俊は苦笑いしながら頭をかく。

加減を間違えただろうか。




でも、もう俊は立ち止まる気はなかった。