「先生は飲まないのですか?」
「…ああ。」
「…………。」
何故とは…聞かないんだな。
まあ、
聞かれた所で…特に大きな理由はない。
朝、朝食代わりに珈琲は飲むが……
あくまで自分の為に入れるだけであって、それ以上のストックがある訳じゃない。
無くなるちょっと前に買い足す…、いつもの、お決まりの…ドリップ珈琲。
味にも、香りにも、変化などなくて……
それが、安心感をもたらす。
コポコポと小さな音を立てて、
立ち上がる湯気と…
キッチンを包むほろ苦い香り。
目を覚ます為の……、
一人きりの、静かな時間。
珈琲は……、
そんな変化のない一日の始まりの象徴のようなものであり……
この部屋で、それを他人と共用しようだなんて……
思わない。
まあ、だから今飲まないという理由にはならないだろうけど……。
今、自分の目の前で…
他人がその珈琲を飲んでいることに…
少しだけ違和感があった。


