和音さんから電話をもらったのは その夜のこと



「高志さん出張なの 朋ちゃんとゆっくり話をしようと思って電話したんだけど

迷惑じゃなかった?」



「迷惑だなんて 嬉しい 一人で心細いでしょう 大丈夫?」



いつもは泣き声か ふにゃふにゃいう大輝の声がしない



お互いに近況報告をしたあと 「ちょっと聞いてもいい?」と 

和音さんが控えめに切り出した話題



「朋ちゃん 気になる人がいるって言ってたでしょう 

もしかして 空港でお会いした方かな?」



和音さんの勘の良さには いつも驚かされる

どう答えようか……

ごまかしても 和音さんには見透かされそうだった



「うん」


「やっぱりそうだったんだ そうじゃないかなって高志さんと話をしてたのよ」


「そうなの?」


「落ち着いた素敵な方ね 歳は高志さんより少し上かしら 

あの若さで課長ってすごいわね」


「兄貴よりちょっと上かな 本省から転勤してくる課長は 

あのくらいの年齢なの」



和音さんにどこまで話そうか 

誰かに 私の気持ちを聞いて欲しい

でも 兄夫婦に心配を掛けるのはためらわれた



「朋ちゃん 気になるなんて言ってたけど 本当はどうなの?

課長さんの方も 貴女を見る目が優しかったし

高志さんったら ”朋代と仲良さそうに歩いてたな” って 

寂しそうだったわよ」



「妹の彼氏って 兄から見たら複雑なのかもね」 と可笑しそうに付け加えた

和音さんの話は続く



「あんなに素敵な方が独身だなんて 朋ちゃん しっかり捕まえなくちゃ」



これには答えられなかった

とっさに 繕う言葉が見つからず 黙っていた



「どうしたの? もしかして……」


「彼 結婚してる」


「朋ちゃん どうして!」



和音さんの大きな声

電話の向こうで 突然 大輝の泣き声がした

”だいちゃん ゴメン 起きちゃったわね”と 大輝をあやす声が聞こえてくる



「和音さん だいちゃん起きちゃったね また電話するから」


「朋ちゃん待って 切らないで ちょっと待ってて」




しばらくすると大輝の泣き声が止んだ




「だいちゃん 寝たの?」


「うぅん おっぱいを飲ませたの」



ふと 大輝のおっぱいを飲む姿が思い出された

一生懸命に飲む顔は無心で 生命力に溢れていた

 

「ゴメンね もう大丈夫よ 朋ちゃんらしくないわね 

どうしてこうなったのか話してくれる?」



この人に隠し事は無理

正直に すべてを 私の想いを話した