「音々さんどうもありがとう。

 そちらに座ってください。」

由比先生は、

音々の持ってきた、コーヒーを俺たちに勧め、

「私はこれが好きでねえ」

そう言ってミルクと砂糖を入れて美味しそうに口をつけた。


「音々さん」


「はい。」


「音々さんは僕を覚えていますか?」


少し首をかしげてから、困った顔をして、


「すみません。覚えていません。」


と答えた。


「いいんですよ。実際覚えていないのが普通です。

 音々さん。手品を知っていますか?」


「ええ、マジックですね。」


「そうだよマジックは仕掛けがあものだよね?

 その仕掛けを教えることを、種明かしというよね。」


「ああ、はい。」


「君が僕を覚えていない、

 その種明かしを今からしようと思うんだけど、

 いいかな?それにはちょっとだけ、

 辛いことも思い出すことになるけど。

 大丈夫かな?」


音々が不安そうに俺を見上げるので、


「音々の好きなようでいいんだよ。」


と笑顔を作った。