「せっかく教えてくださったけれど、

 私には母と名乗る資格はありません。


 未熟だったというしかありません。


 結婚相手に突然捨てられて、

 一人で育てようとしたけれど、

 相手の男を思い出すと愛せなくて…

 どうにもならなくて、乳児院に預けたんです。


 私は、一度だってあの子を愛しいと抱きしめてあげることもなかった。

 後で、姉夫婦が引き取ったと聞いて安堵していたんです。


 罪悪感も幾分少なくなり、ほっとました。

 
 無責任な女なのです。


 そんな私が母と名乗り出るなど到底できません。」


「あの、捨てられたって、じゃあその人は…」


「さあ?どこかで生きてるんじゃないかしら?」


「お義兄さんじゃあ…?」


「まさか!どうしてそんなこと…」


「そうですか。違うならいいんです。」


何か誤解があったのかもしれない、

真実はやはり本人しかわからないものだ。


そうなると音々はたしかにあの家の養女だったって事か。



「それで、図々しいお願いなのですけど…」


女将は恐縮しながら、切り出した。


その願いは…