病室、まだ麻酔の切れていない美鈴が微かな寝息を立てている。上から吊るされた点滴の液がチューブの中で水滴を作って、彼女の身体に落ちていく。ベッドの傍らでその様子を見ている美里の指が唇の上を滑っていく。それがふと止まり、白い歯に噛まれる。
 そんな二人の様子を少し離れたところから啓介が見つめている。
 傍に近づきたいのだが、彼の中の良心がそれをとがめている。
 後悔がその胸を過ぎる…。
 時は静かに流れていく…。
 闘わなければならない二人の上を蔑むように流れていく。
 触れ合いたい二人の上を素知らぬ顔をして通り過ぎていく。
「何故…」
 啓介の震えた声が美里の耳に届く。
 美里が顔を上げる。
「何故僕達は闘わなければならないんです?」
 不条理な現実に向かって啓介は怒りに震えた声をぶつけた。
 美里は立ち上がると震える啓介を背中から抱きしめる。
「そうね、どうして闘わなければいけないのかしらね…」
 その声には悲しい響きがあった。
 啓介は呪った。
 自分に背負わされた悲しい運命を。そして、それを伝え続ける自分の血を…。