森崎は自分のデスクに座りむなしく光っているノートパソコンのディスプレイをぼんやりと見つめていた。結局、あの記事は書かなかった。タロの件の確信を握っている恵理子が殺されてしまったため、彼女の闇の部分は結局わからなかった。それでも彼女のただ一人の妹という人物を葬儀の場で見つけたのだが、彼女は多くを語ってはくれなかった。ただ、幼い頃から野良犬や野良猫を拾ってきては両親を困らせていたという以外、これといったことは聞くことが出来なかった。
 けれども、恵理子がそれらを安楽死させていたらしいということは、近所の人間たちも知っていた。そして、それが役所の人間によって飼っていた動物たちの大半を処分されてしまった頃から始まったらしいということはわかった。
 恐らく処分場で殺してしまうよりは、少しの間だけでも幸せな思いをさせてやって安楽死させていたようだった。
 処分場では複数の檻があり、処分される動物たちはそこに入れられる。一日が過ぎると隣の檻に移動させられる。そして最後の檻に来たとき、それらは機械的に処分される。恵理子はそれには耐えられなかったのだろう。
 しかし、そのような話はタウン誌向きではなかった。
 あまりにも残酷で暗すぎる話だからだ。
 だから森崎は記事にしなかった。
 記事には出来なかった。
 恐らくタロは既にこの世にはいないのだろう。
 多くの同胞たちとともに同じ場所で眠っているのだろう。
 それが何処かはわからなかったが…。
 森崎はしわの寄った煙草の袋を手にして喫煙室に向かった…。