子供たちは帰ってきた。
 いなくなったときと同じ服装で、そして同じ身体で…。
 小島は子供たちを美しが丘署に連れて行き、その子たちの親を呼び寄せた。その場には恵と児童相談所の担当者が同席していた。親たちは揃って喜びの表情を浮かべ、小島が用意した会議室に身を置いていた。その表情には子供たちを虐待してきたという様子は微塵もなかった。
 子供たちもまた、親に会えたことを喜んでいるように見えた。皆、「いい子」を見せることに慣れていたからだった。
 親たちは早く子供を連れ帰りたいという表情を小島たちに見せている。だが、小島はそれには応じずに静かに話し始めた。
「皆さん、お子さんはこのように無事に帰ってきました。しかし、すぐにお返しすることはできません」
 その言葉は親たちにとっては思いもかけないものだった。
「何故ですか?この子は私の子です」
 親の一人が言った。
「そうだ、私たちには連れて帰る権利がある。おまえたちの言うことなど聞く必要はない!」
 たぶん父親なのだろう、違う親が続いた。
 小島は困ったような顔をわざと見せて首を横に振った。
 そう、この反応は予め予想していたのだ。
「私もできることならそうしたいのですがね、そうもいかないんですよ」
 小島はそう言うと傍らで立っている恵に目配せをする。それを受けて恵は手にしていた書類の束をひとつずつ親たちの手に渡していった。
 親たちは怪訝そうにその書類に目を落とし、すぐにばつが悪そうに目を反らした。
「お分かりでしょう?この子たちは虐待を受けている可能性が高いことを私たちは確認しているのですよ。そしてこの様子からこの子たちを保護するという結論に達したのですよ」
 親たちは小島の目を見ようとはしない。
「ごめんなさい…」
 小さな声で翔の母親、守屋香が震えた声を出した。
 それは消え入りそうなほど小さなものだったが、会議室にいる誰の耳にも届いた。
「お母さんが悪かったわ…。もうしないから…」
「それをどうやって私たちは信じればいいのですか?」
 小島の声が残酷に香にぶつけられる。
 香は黙ってしまった。ただ黙るしかなかった。
「あなた方は変わらなければいけない。この子たちがあなた方にとってどういう存在なのか、時間をかけて考えて欲しい。そしてこういう悲劇を起こさないようにして欲しい。私たちはそう願っています」
 小島の言葉が静かに会議室に伝わっていく。
 恵の視線が鋭く親たちを見回していく。
「それでは、よろしいですね?」
 小島はそう言うと会議室の主役を児童相談所の担当者に譲った。
 彼は淡々と事務的な話を始めた…。