1歩下がって次郎の反対方向に走る。
「おい、逃げんなよ」
海の波の抵抗でいつもより上手く走れない。
でも、無我夢中で人がいない方向に走る。
「おいっ、雛子っ」
後ろから勢い良く腕を引かれた。
「待てって」
「ツ…もう離してよ!」
腕を引き離そうとするけど、掴んでいる力が強くて引き離せない。
「なんで、目の前に現れるの!?
言ったよね?あたし、次郎と次に会うのは次郎を忘れた時って!」
心の中に鍵をしていた気持ちが一気に溢れる。
「まだ、まだあたしたち会っちゃいけないんだよ!
まだ…まだあたしの気持ちはあんたに向いてんのよ!
まだ好きなの!次郎が好きなの!」
そう叫んだ瞬間、強く抱きしめられた。
「やっと言った」
見上げると次郎はニヤニヤしながらあたしを見つめる。
「やっと俺のモノになりやがったな、コラ」
「なっ、だからっ」
「俺も雛子のことが好きだったんだよ」
「離し…え?」
今なんて…。
「だから、雛子が俺もあのナンパしたあの夏から好きだったんだよ」
次郎を見ると今までで1番優しい笑顔だった。

