斜め上75度の景色。



1歩下がって次郎の反対方向に走る。



「おい、逃げんなよ」


海の波の抵抗でいつもより上手く走れない。


でも、無我夢中で人がいない方向に走る。



「おいっ、雛子っ」



後ろから勢い良く腕を引かれた。




「待てって」



「ツ…もう離してよ!」



腕を引き離そうとするけど、掴んでいる力が強くて引き離せない。



「なんで、目の前に現れるの!?

言ったよね?あたし、次郎と次に会うのは次郎を忘れた時って!」



心の中に鍵をしていた気持ちが一気に溢れる。



「まだ、まだあたしたち会っちゃいけないんだよ!

まだ…まだあたしの気持ちはあんたに向いてんのよ!

まだ好きなの!次郎が好きなの!」


そう叫んだ瞬間、強く抱きしめられた。



「やっと言った」



見上げると次郎はニヤニヤしながらあたしを見つめる。



「やっと俺のモノになりやがったな、コラ」



「なっ、だからっ」



「俺も雛子のことが好きだったんだよ」



「離し…え?」



今なんて…。



「だから、雛子が俺もあのナンパしたあの夏から好きだったんだよ」



次郎を見ると今までで1番優しい笑顔だった。