何気ない、晴れた日のことだ。
この日、俺の運命が揺らいだのだ。
登校、そして授業。
本当に変哲の無い、いつもの風景。変わりは無かった。
実戦演習のことも何もおかしなことは無かった。
――はずだった。
実戦演習直前。
俺達は50ヘクタール相当にもなりそうなグラウンドに集まっていた。
だが。
体の調子がどうにもおかしい。
軽くストレッチをしてみても、違和感を拭いきれない。
良い印象で言うなら、体が軽い。
悪い印象で言うなら、それはふわふわしたような感覚。
重力がやけに緩く感じてしまうのだった。
「……どうかしたの?」
俺に話しかけてきたのは三浦だった。
「いや、ちょっと体の調子が、な」
「大丈夫なの? 先生呼んで見学授業にしてもらったほうがいいんじゃない?」
身を案じてくれる三浦を、俺は“大丈夫だ”と手で制す。
それでも心配そうなので笑ってやった。
「まぁ、振り替え補修を受けるのはまっぴらごめんだからな」
と。
「無理だけはしないでね。不安定なコンディションで能力を使うと、怖いから」
「わかってるよ」
俺は、演習用に用意された対象――ロボットに向き直る。
「さぁ、掛かってこいよ! この木偶人形ッッッ!!」
ロボの、不気味な起動音がした。
銀色の体躯に光り、明滅するLEDが俺を捉える。
鏡面のような大きなロボットが、こちらに向かってくる。
……俺だって全力を出せば、一体ぐらいなんとかなる。
大丈夫だ。
やれる。
神経を研ぎ澄ませ。
無駄を削ぎ落とせ。
そして。
「うぉらぁっ!」
叩き潰すことを考えろ!
放たれた念力がロボットのアルミ合金をへこませる。
念力という能力は基本的に力場に“指向性”を与えることで
任意に影響を与えることができる。
つまり、距離があっても打撃を加えることができる。
「……つっても、そんなに威力は無いはずだが」
だがロボットの装甲を大きくへこませた。思ったより能力のきれがいい。
出だしは上々だ。
「おら、もういっこ持ってけぇっ!」
アルミ合金の塊が、やすやすと吹っ飛んでいった。
いつもよりも、攻撃が通る。
どういうことだ。
なんだ。この火照ったような感覚。
眩暈、じゃない。
念力自体はこんなに調子がいいのに。
力が漲るのを感じる。
熱に冒されている……わけじゃない。
わからない。
分からないけど、いける。
「上だッ! 避けてッ!」
っ!?
三浦の声が背後から聞こえた。
俺は反射的に上を仰ぐ、すると。
「ゥィィィィイイイイイ……ギュゥイン!」
ロボットが一気に間合いを詰めてきていたのだ。
考え事をしていたのが命取りだった。
ロボの両拳はまるで処刑用ギロチンのように空高々と掲げられていく。
その様を前にして、俺は硬直していた。
避けろ。
――動けない。
そして重々しい一撃が、俺の左腕を掠めた。
攻撃は当たらなかった。
だが。
「ぐあぁっ……っ!」
ロボットの拳が地面を抉った。
飛び散ったグラウンドの破片が、俺の身体を木の葉のように吹き飛ばす。
砂と小石が俺の頬をズタズタに切り裂いていく。
もう何度目かになる土の味。
何度味わっても、気に入れない味。負け犬の味だった。
「くそっ……」
その上に、ロボットは倒れた俺に近づき、とどめの一撃を振り下ろそうとしている。
冗談がきついっての。
「また補修とか、うんざりなんだよっ!」
俺の額に向けて迫る、アルミの拳。
それを念力で受け止める。
地面にめり込むような衝撃があったが、それでも受け止めている。
それ自体が不思議だった。
そう、未だかつてここまでの出力が出せたことなどなかった。
こんなに重い一撃に耐えたことなど無かったからだ。
「ぐぅっ!」
背骨がミシミシと音を立てる。
おいおい。
速攻保健室送りってのも、最悪のシチュエーションだぞ。
考えろ。
研ぎ澄ませ。
今、ロボットをもっとも効率よくぶちのめす、その流れを。
そう力の流れ。
奴は今ぶっ倒れてる俺に向けて、地面に向けて拳を放っている。
よって重心は前のめり、前方下にあるということになる。
なら。
「……なぁ、お前も実戦演習の補修から出直して来やがれ……っ!」
ロボットの足元、駆動機関に向け斜め上方ベクトルの横薙ぎを入れる。
よってロボットは俺の念力によってバランスを崩し、俺の隣に倒れる。
今日の能力ならばいける。
この調子、かなりいい!
「地べた、這い蹲って、みろっっっってんだぁあああああっ!」
今度は俺が、上から下――そう、ハンマーのような一撃を、ロボットに叩き込む。
最高出力。
いや、最高のそのまた上。
力が溢れてる。
見えない、でも圧倒的な、念力。
その力が――放たれる。
「…………っ!」
爆発音。
それは爆発音に近かった。
アルミ合金で作られた演習用ロボットはバラバラと粉々の中間ぐらいな状態になって、
グラウンドに出来たクレーターに埋もれていた。
俺のほうは、いつもに比べて疲労感も薄い。
やはりそうだ。
俺の能力は、格段に上がっている。
何故だかはまだ分からないのだが、それだけは分かったのだった。
――そう、それは、突然の“覚醒”だった。
この日、俺の運命が揺らいだのだ。
登校、そして授業。
本当に変哲の無い、いつもの風景。変わりは無かった。
実戦演習のことも何もおかしなことは無かった。
――はずだった。
実戦演習直前。
俺達は50ヘクタール相当にもなりそうなグラウンドに集まっていた。
だが。
体の調子がどうにもおかしい。
軽くストレッチをしてみても、違和感を拭いきれない。
良い印象で言うなら、体が軽い。
悪い印象で言うなら、それはふわふわしたような感覚。
重力がやけに緩く感じてしまうのだった。
「……どうかしたの?」
俺に話しかけてきたのは三浦だった。
「いや、ちょっと体の調子が、な」
「大丈夫なの? 先生呼んで見学授業にしてもらったほうがいいんじゃない?」
身を案じてくれる三浦を、俺は“大丈夫だ”と手で制す。
それでも心配そうなので笑ってやった。
「まぁ、振り替え補修を受けるのはまっぴらごめんだからな」
と。
「無理だけはしないでね。不安定なコンディションで能力を使うと、怖いから」
「わかってるよ」
俺は、演習用に用意された対象――ロボットに向き直る。
「さぁ、掛かってこいよ! この木偶人形ッッッ!!」
ロボの、不気味な起動音がした。
銀色の体躯に光り、明滅するLEDが俺を捉える。
鏡面のような大きなロボットが、こちらに向かってくる。
……俺だって全力を出せば、一体ぐらいなんとかなる。
大丈夫だ。
やれる。
神経を研ぎ澄ませ。
無駄を削ぎ落とせ。
そして。
「うぉらぁっ!」
叩き潰すことを考えろ!
放たれた念力がロボットのアルミ合金をへこませる。
念力という能力は基本的に力場に“指向性”を与えることで
任意に影響を与えることができる。
つまり、距離があっても打撃を加えることができる。
「……つっても、そんなに威力は無いはずだが」
だがロボットの装甲を大きくへこませた。思ったより能力のきれがいい。
出だしは上々だ。
「おら、もういっこ持ってけぇっ!」
アルミ合金の塊が、やすやすと吹っ飛んでいった。
いつもよりも、攻撃が通る。
どういうことだ。
なんだ。この火照ったような感覚。
眩暈、じゃない。
念力自体はこんなに調子がいいのに。
力が漲るのを感じる。
熱に冒されている……わけじゃない。
わからない。
分からないけど、いける。
「上だッ! 避けてッ!」
っ!?
三浦の声が背後から聞こえた。
俺は反射的に上を仰ぐ、すると。
「ゥィィィィイイイイイ……ギュゥイン!」
ロボットが一気に間合いを詰めてきていたのだ。
考え事をしていたのが命取りだった。
ロボの両拳はまるで処刑用ギロチンのように空高々と掲げられていく。
その様を前にして、俺は硬直していた。
避けろ。
――動けない。
そして重々しい一撃が、俺の左腕を掠めた。
攻撃は当たらなかった。
だが。
「ぐあぁっ……っ!」
ロボットの拳が地面を抉った。
飛び散ったグラウンドの破片が、俺の身体を木の葉のように吹き飛ばす。
砂と小石が俺の頬をズタズタに切り裂いていく。
もう何度目かになる土の味。
何度味わっても、気に入れない味。負け犬の味だった。
「くそっ……」
その上に、ロボットは倒れた俺に近づき、とどめの一撃を振り下ろそうとしている。
冗談がきついっての。
「また補修とか、うんざりなんだよっ!」
俺の額に向けて迫る、アルミの拳。
それを念力で受け止める。
地面にめり込むような衝撃があったが、それでも受け止めている。
それ自体が不思議だった。
そう、未だかつてここまでの出力が出せたことなどなかった。
こんなに重い一撃に耐えたことなど無かったからだ。
「ぐぅっ!」
背骨がミシミシと音を立てる。
おいおい。
速攻保健室送りってのも、最悪のシチュエーションだぞ。
考えろ。
研ぎ澄ませ。
今、ロボットをもっとも効率よくぶちのめす、その流れを。
そう力の流れ。
奴は今ぶっ倒れてる俺に向けて、地面に向けて拳を放っている。
よって重心は前のめり、前方下にあるということになる。
なら。
「……なぁ、お前も実戦演習の補修から出直して来やがれ……っ!」
ロボットの足元、駆動機関に向け斜め上方ベクトルの横薙ぎを入れる。
よってロボットは俺の念力によってバランスを崩し、俺の隣に倒れる。
今日の能力ならばいける。
この調子、かなりいい!
「地べた、這い蹲って、みろっっっってんだぁあああああっ!」
今度は俺が、上から下――そう、ハンマーのような一撃を、ロボットに叩き込む。
最高出力。
いや、最高のそのまた上。
力が溢れてる。
見えない、でも圧倒的な、念力。
その力が――放たれる。
「…………っ!」
爆発音。
それは爆発音に近かった。
アルミ合金で作られた演習用ロボットはバラバラと粉々の中間ぐらいな状態になって、
グラウンドに出来たクレーターに埋もれていた。
俺のほうは、いつもに比べて疲労感も薄い。
やはりそうだ。
俺の能力は、格段に上がっている。
何故だかはまだ分からないのだが、それだけは分かったのだった。
――そう、それは、突然の“覚醒”だった。


