ポタ、ポタ


「…また」


私は突然流れ出した涙を鬱陶しく思う。
最近、何も哀しくも無いのに涙が零れることが頻繁にある。

後遺症だろうか。
それとも別の何かか。


ガラッ
気を抜いて居たとき、突如聞こえる音に驚き咄嗟にドアを凝視する。

「誰ッ!?」

「……、」


医師でもない、看護婦、ましてや知り合いですらない。

その人物は、声が出せないのか口をパクパクと開閉していた。


「此処には私だけですよ。用なんて、無いでしょう?」

「…、?」


遠回しに帰れ、と言って見るも相手は首を傾げ、挙げ句には此方へ近寄る。

何を、と呟くも伸ばされた手に思わず目を瞑った――


スッ
その手は私の目元を掠めれば直ぐ離れていく。
恐る恐る目を開ければ、どうやら先程の涙を拭ってくれたようだった。


「…その、ありがとう?」


疑問系でお礼を言えば、相手は満足そうに笑う。
裏を見せないその笑顔に安堵する。

「……、…?」

相手は何かを聞きたそうに首を傾げ、またパクパクと口を動かす。
何と無く察すれば、こくりと頷く。


「名前、ね。泪だよ。サンズイにメで泪。」

「…?」

そう答えれば、相手は窓ガラスを曇らせキュッキュど泪゙と書く。
そうだよ、と言えば更に隣に文字を書いていった。


「…憂、?」

「……」

ゆう、と読むと首を振られた。
と言うことは、


「うい。」

「…!」


当たったらしい、憂は嬉しそうに私に抱き付いた。
慌てて抱き留めると、何だろう…同じ女としては少し敗北感がある。

そんな思考を他所にぎゅうぎゅうとくっつく憂を然り気無く離した