最初に話しかけたのはなんて言葉だったろう。
かなり緊張していたから、そう、わけわかんないこと口走った。


「キティちゃん、好きなんですか?」

多分、こう話しかけたと思う。彼女のジャージがキティちゃんだったから。

彼女は耳につけていたイヤホンをはずして
「え?」
と聞き返した。

私はそこで言葉を変えて、
「今日から本館に移ってきた神崎です……知っている人がいなくて」
と彼女の顔を見た。
彼女も……仮にS田リカちゃんとしておく、
「S田リカです……なんて呼べばいい?」
と返してくれた。


 お互い、年が近くて。
 しかも実家がご近所で。
 私の方が年上だけど、同じ小学校に同じ中学校出身、という、まさに、精神病院という閉鎖空間で出会うには奇跡のような女の子だった。


リカちゃんは、
「うわ、年下やと思ってた、余裕で」
と言うので、
「緊急搬送されたからすっぴんできちゃって、そのまま。持ち物とかもまだ北館から出てきたばかりでよくわかんない」
と伝えると、
「化粧品持ってきていい?てい者に聞いたらええねん。あ、主治医誰?」
「Mドクター」
「まじ?うちもやで」
と、病院生活を快適にする方法を次々に教えてくれた。


 しかし。
「うちも話しかけようかなーって思っててんけど、怖い人やったらどうしよーと思ってはなしかけられんかった」
と言われた時は
「怖いかい、この黒髪で」
と突っ込んだ。


彼女は笑いながら、
「いや、ここ精神病院やし。あ、むしろうちこんな見た目やのに怖くなかったん?」
と、自覚のある返事をしてくれた。

 私が、
「友達にも口ピいるし……ヴィジュアル系好き?もしかして」
と聞くと、
「あー!わかってくれる人がきた!」
彼女は喜んでくれた。

いわく、彼女はギャルが苦手。なのに見た目のせいで怖いと勘違いされがち。
それが嫌だとのこと。


まったく怖いとは思わなかったので、その日から、そう、ごくごく自然に私たちは二人で行動するようになった。


2012.12.3 4:27
はなの