けれど筆記用具の許可が出たのはうれしかった。
少し気分がましになって、けれどいつ此処から出られるのだろうと不安でたまらなかった。


 「クワイエットルームへようこそ」の主人公は二週間で退院した。
でも、教科書には「社会的入院」といって、病院がすみかになっているような、何十年も精神病院に入院している人の事例が描かれていた。


 すべては医師の判断次第。
私はなるべく好印象をあたえようと、そうしてとにかく自由になりたいと思った。



 午後には毎日、血圧を測定される。
私は血圧を測りに来たナースさんと少し話した。


話し相手がほしかった。だれも、だれもいない此処で、患者はほぼ全員が認知症の老人か、あのナースステーションの奥の暗い部屋に閉じ込められて出てこられない人々ばかり。


 夕刻、「母からの差し入れ」となぜかナプキンとゴミ箱がやってきた。
筆記用具はまだ来なかった。



……母よ、なぜにナプキンなのだ?
でも母らしくて笑えた。


 そのあと、急にみぞおちが痛くなった。
これも私にはよくあることだった。ストレス性、神経性。


もはや病院ストレスなんじゃなかろうかとすら思いながら、あまりの痛みにナースステーションへ訴えた。


……部屋で安静にしていろと言われた。
それだけかよ、なんかもうちょっとリアクションはないのか。




仕方なく、部屋で寝ていたら、いつの間にか本当に眠っていたらしい、夕食を下げに来た人で食事の時間だったことに気付き、なんとか起き上がる。

夕食は炊き込みご飯と太刀魚、サラダと昆布の佃煮だった。


 筆記具の許可がでたせいか、炊き込みごはんをおいしいと感じた。


食後ホールの唯一の筆記用具がある場所で書き物をしていたら、ホールの真ん前の231号室から、大きな絶叫が聞こえた。