「藤岡――」
彼の腕が私を包み、その重みを感じたのは、錯覚だったのだろうか。
あれだけ私を焼き刻まんとしていた暴威は、幻想だったのだろうか。
彼と交わした今の言葉もぬくもりもすべて、偽りだったのだろうか。
ようやく焦点と意識の合致した視界は、紅くもなければ熱くもなく。
遂に解放された晴れ渡った午前の空は、不審なほど青々としていて。
「藤岡……」
その世界にもはや、彼という安らぎの鞘は、存在する理由を失った。
右手で握り締めているナイフはまだ、艶やかしい白銀を帯びている。
そこにあるのは、他者を侵害、凌辱、果ては惨殺するという狂気性。
けれど今、その眩いほどの危うさは、熱とともに消え果ててしまった。
すべて、彼のおかげだ。
感謝は、しない。なぜならそれが彼の存在意義だったし、使命であったし、約束だった。
一方的な約束だったけれど、約束は約束だった。
私は真輝であり真鬼、真鬼であり真輝。これは刃であり銃であり弾丸であり、すなわち凶器となる。
総じてこれを、東城真輝と称する。
藤岡悟はその一切と合切を守り庇う、鞘なのだ。
彼の腕が私を包み、その重みを感じたのは、錯覚だったのだろうか。
あれだけ私を焼き刻まんとしていた暴威は、幻想だったのだろうか。
彼と交わした今の言葉もぬくもりもすべて、偽りだったのだろうか。
ようやく焦点と意識の合致した視界は、紅くもなければ熱くもなく。
遂に解放された晴れ渡った午前の空は、不審なほど青々としていて。
「藤岡……」
その世界にもはや、彼という安らぎの鞘は、存在する理由を失った。
右手で握り締めているナイフはまだ、艶やかしい白銀を帯びている。
そこにあるのは、他者を侵害、凌辱、果ては惨殺するという狂気性。
けれど今、その眩いほどの危うさは、熱とともに消え果ててしまった。
すべて、彼のおかげだ。
感謝は、しない。なぜならそれが彼の存在意義だったし、使命であったし、約束だった。
一方的な約束だったけれど、約束は約束だった。
私は真輝であり真鬼、真鬼であり真輝。これは刃であり銃であり弾丸であり、すなわち凶器となる。
総じてこれを、東城真輝と称する。
藤岡悟はその一切と合切を守り庇う、鞘なのだ。

