「……あ、……」

うたかたの時、呆けてしまう。

背後に感じていた巨大な殺気が、夢か幻のように失せている。

僕と真輝ちゃんは、仁の魔術で空間を飛んだんだ。

つまり、逃げ切った。

「仁、ここは……?」

と、息をつく前に訊ねていた。

風が吹く、とてもとても高い場所で――むき出しだったり、半端にしか組まれていない鉄骨の塔だ。

地上は遥か遠く、豆のようになった車が、塵のような大きさになった人が行き交っている。

見渡せる景色は、中心街。

(そうか、ここは)

少しの予想がついた時、

「大木ホーンタワーだ。建設中だがな、物見台にはもってこいだろ?」

仁がそう答え――

彼方南区で、あの女の力が発現したのを、聞いた。

遠い中心街まで響くのは、失敗した殺しの、残響。

しゃーん、という、清浄すぎて気色悪い音だった。