幼い頃より姫を蝶よ花よと大切に育ててきた父が見初めた男だ。 恐らく何一つ申し分のない男なのであろう。 それは彼女も理解していた。 (私が嫁ぐには過ぎた相手なのかもしれませんね) この御家第一の世の中、政略結婚など当たり前で。 縁談が成立するのは喜ばしいこと。 久保姫とてそれに楯突くつもりなど毛頭無い。 武家の娘に生まれた以上、やり遂げねばならぬ使命がある。 恋い焦がれる相手と結ばれることなど期待してはならないのだ。