「描き、たい」



ぼそり、と。

口から零れるように言葉が出た。

唇がかさかさして、うまく口が回らない。



「葉月? ねぇ、大丈夫?」

「大丈夫、だいじょうぶだけど」



珊瑚の笑顔の場面が、頭に焼きつく。

まるでその瞬間を写真で撮ったように、残る景色。


手が動こうとしてる。

戦慄。

この、感覚は




『次に——を持ったら、指がないわよ』






「葉月! 教室行くわよ」

「……っうん、ごめん。珊瑚」

「辛かったら、言いなさいよ」

「うん————正直なところ、それいくら?」

「きっかり500円よ」

「うわぁ良心的ー」



珊瑚は珊瑚のままだった。

でもまだ、それでいいのだ。

モチーフとは、じっくり付き合うのが画家だ。


赤いモチーフとも、ね。







ふたつめ、近づく。