育児休暇に入り 美容院に行って来るという円華のために 

初めて鈴と二人っきりで過ごした3時間ほど

本当は不安でたまらなかった

鈴は母乳のほかにミルクも飲んでくれるため 食事はいいのだが……

急に泣き出されると どうした どうしたと オロオロした

オムツも替えた ミルクも飲んだ 眠そうでもない 

じゃぁ コイツは何に不満なんだ 

ワケもなく泣く鈴を抱えてなす術もなく ただ抱っこするだけの時間が過ぎる

美容院の帰りに買い物をしてきたと 満足げな女房の顔を見たとき 

鈴と一緒に俺も泣きたくなった

円華が抱くと泣き止む鈴に ”おまえなぁ~なんで泣き止むんだ!” 

と文句を言ったほどだ


母親には勝てない……俺の正直な感想……


その日から 家事を引き受けることにした

料理をするのは嫌いじゃないし 洗濯だって可愛い娘の肌着くらい

なんてことない

特に食事には気を遣った

本やネットで 「母乳のためになる食事」 なんてのも読み漁った

これには嵌った……

昆布やカ鰹節でだしをとり 味付けは薄味 油物は極力避け 見た目も良くと

だんだん手の込んだ食事になるのを 円華は 

”男の人って のめり込むとすごいわね 本格的じゃないの” と驚いていた


ときどきお義父さんがやってきて 鈴を散々甘やかす

そんなお義父さんを お義母さんがたしなめる

事故の後遺症で 左手に痛みが残る俺の親父さえ 鈴を抱っこすると

痛みを忘れるよと言っていた


朝から晩まで 鈴の顔を見られる生活は とても充実していた

寝返りを覚えた鈴は いっときもじっとしていない

寝返りといっても 仰向けからうつぶせになるだけ

自分でゴロンと転がっておきながら 元に戻れなくてアーアー言ってうるさい

そんな娘を 女房と飽きずに見て過ごすのだった


三人で過ごした一ヶ月は 俺にとって 貴重で忘れられないものになっていた