「工藤さん 広川さんのお見舞いに伺ってもいいですか?」


「いいけど ウチにはいないんだ 実家に帰ってる 

退屈そうにしてるから遊びに行ってよ」



円華の後輩達が 部屋を出たあと俺を追いかけてきた

広川さんにばかり負担をかけてしまってすみませんと 彼女達にまで謝られ

苦笑したが 彼女は こんなにも皆から慕われているのだと嬉しくもあった



「急にしゃがみこんだときはビックリしました ちょうどこの辺だったよね」



女の子の一人が 廊下を見下ろして他の子に同意を求めると 

みなでウンウンと頷いている



「胃のあたりを押さえてうずくまって 脂汗っていうのかなぁ 

顔なんて冷たい汗で 誰かを呼びに行こうとしたら 

通りかかった課長が運んでくれたんです あっというまだったよね」


「うんうん どうしたのって聞いたかと思ったら 

グイッって広川さんを持ち上げて行っちゃうんだもん

大股でどんどん歩くから みんなであとを追いかけて 

ホントすごかったね あのときの若林課長」


「私 広川さんのお姫様抱っこ 見たの二回目です 最初は工藤さんでしたよね

あのときもビックリしたわぁ きゃ~ステキー! って 

私も転んじゃおうかって真剣に考えました」


「あはは そうそう みーんな思ったよねー 今度だってそうよ 

若林課長の逞しい腕に抱えられて きゃ~~っ!!」


「でもさぁ 重くて持ち上がらなかったらすっごい恥ずかしいね 

まずはダイエットかなぁ」 



女の子たちのおしゃべりに穏やかに相槌を打ち……いや 穏やかなんかじゃない

若林課長って名前が出てから きっと俺の顔色は変わっていたと思う

彼女らは 円華を抱き上げて運んだのが若林課長だったと俺が知っていると

思い込んでいるようだ

それに話をあわせていたが……


円華 どうして黙ってたんだろう

やっぱり俺に言いにくいことだったんだろうか

それとも 言いたくなかったのか


そう言えば 昨日医務室に向かう途中であの人に会ったな

そうか 円華を運んだ帰りだったのか!

よりによって 居合わせたのが なんでアイツなんだぁ 

まったく 若林って名は俺をイライラさせる