「相談せずに決めて悪かった ごめん」



なんだかんだと強気なことを言ったが その日の終わりに 

俺は年上の女房に謝っていた



「うぅん 私のほうこそごめん 

要が私のことを考えてくれてるの わかってたけど 

痛いところをつかれて余計腹が立ったの 家にいたらパソコンもあるし 

絶対仕事をしてたと思う」


「やっぱりなぁ」



円華が結婚する前まで使っていた部屋

大方のものは持ち出したが ベッドと生活に必要のないものが残っていた

布団を持ち込み 円華のベッドの横で休むことにした俺に 

お義母さんはすまなそうな顔をしたが そばにいた方が安心しますと答えると 

”まぁ ご馳走様” と大げさに笑い枕元に電気スタンドを貸してくれた

ぼんやりと灯る明かりは 夕暮れ時のような柔らかな色だった



「要」


「うん?」


「そっちに行ってもいい? 一人じゃ寂しくって」


「いいよ」



上掛けを捲ると 円華がベッドを抜け出してスルリともぐりこんできた

腕の中に抱え込むと 添い慣れた体が丸く収まった



「胃カメラの検査 嫌だなぁ 経験した人の話を聞くと すごく大変そう」


「検査をしたらスッキリするよ」


「でも はぁ~憂鬱だなぁ」



円華のパジャマの上着の下から手を差し込み 胃の辺りをさすった

しばらくさすったあと 手のひらを置くと ふうぅ っと息を吐く音がした



「気持ちいい 要の手って温かいね」



ぼんやりと明かりの灯った部屋に 互いの息の音だけが聞こえる

もぞもぞと 時折動いていた彼女の手足が動かなくなると 程なく 

すぅすぅと寝息が聞こえてきた

ベッドに一人は寂しいなどと 可愛いことを言うんだと思ったら 

薄暗い部屋に小さく笑いがでた


結婚するってこういうことだよなぁ

懐に円華のぬくもりを感じながら また顔が緩んだ