重い沈黙が部屋を包んで、紅茶の湯気と香りが立ち昇る。
「……初めて、すみれちゃんの名前を聞いたのは、すみれちゃんが1歳くらいの時だったかしら」
どこか遠くを見つめながら、懐かしむように話しだすおばあちゃん。
「私に孫が出来たって、嬉しくって嬉しくって、会いたくてたまらなかった。…けれど、来る日も来る日も会うことは叶わなかった」
「……?どうして?」
「……長くなるけど、我慢して聞いてね?……すみれちゃんのお母さんはね…すみれちゃんを産んだことを、すみれちゃんのお父さんに隠していたの」
「…隠す?」
「そう。…どうしてかは、わからなかった。…だから、すみれちゃんの存在を知ることが出来たのは、さっき言った、すみれちゃんが1歳の頃。…会わせて欲しいと、すみれちゃんのお父さんが言っても、お母さんは会わせようとはしなかった」
「…どうして…そんなこと」
「…どうしてかしらね…。おばあちゃんが思ったのはね、…寂しかったんじゃないかと思うの」
「…寂しかった?お母さんが?…まさか」
「…きっと…すみれちゃんを会わせれば、連れて行かれるんじゃないかって、思ったんじゃないかしら」

