初めてこの家にやって来たのは、5歳ぐらいだったと思う。
母を追いかけて追いかけて、気が付けば病院のベッドの上でたくさんのチューブに繋がれていて、怖くてたまらなくて泣き叫んだのを今でも覚えてる。
誰の声も届かなくて、信じられなくて、ただひたすらに母を求めていた。
求めても求めても、温かく抱きしめてくれる誰か、なんていなくて。
高熱にうなされながら、幼いながらに、いらないと、捨てられたんだと悟った。
それからは食事も取れなくなって、話すことも出来なくなった。
…ううん、違う。
出来なくなった、じゃなくて、しなくなったんだ。
生きる意味も、生まれた意味も、分からなくなってた。
だから当然体調は悪くなって行く一方で、このまま死ぬのかな、なんて思っていた、そんな時。
廊下からバタバタと走って来る足音が聞こえて来て、あれがママだったら良いのにと、泣き過ぎて枯れたと思っていた涙がまた溢れて来て、どうしようもなく辛くて、布団に潜り込もうとぎゅっと手に力を入れた瞬間、
ガラガラ!
大きな音をたてて、ドアが開けられた。
息を切らしながら病室へと飛び込んで来たのは、見たこともない、綺麗な着物姿の女の人だった。

