イライラする。
さっきからパソコンと睨めっこ状態で粘っているけど、全く集中出来ない。
『!わ、佐原くん?』
相変わらず、綺麗だった。
『佐原課長、だ』
眩しい笑顔は、正直目の毒。
彼女が秘書室へ異動して、約3ヶ月。
送別会が未だに出来ずにいるのは、絶対的にある人物の陰謀。
…あの人なら、絶対にやる。
敵わないって、最初からわかってる。
30歳にして、この本城グループの若き専務取締役。
頭脳明晰、容姿端麗。
物腰は穏やか。
完璧過ぎて、もはや人間なのかさえ疑わしい。
だからあの人からすれば、俺なんて何も出来ない赤ん坊のようなものだろう。
…だけど、だけど。
譲れないものはあるんだ。
水木すみれ。
彼女だけは、簡単には諦められない。
ずっと、ずっと見てきたから。
だから、休憩室の前を通り過ぎる彼女を見た時、急いで飛び出したんだ。
まるで、偶然居合わせたように振る舞って。
『……水木課長?』
奮える声を、必死で抑えて。
ハッと振り向いた彼女からは、男物の香水の香りがしたから。
…すんげーイラっとした。
幸せそうにキラキラ笑う彼女に、触れたくてたまらなかった。
「………チッ」
未練がましいのだろうか。
いや、まだなにも勝負はしていない。
なにもしないで、負けを認めるわけにはいかない。
「……負けねー」
side.佐原 end.

