「……ふざけた冗談を。そんなことを言
って結婚から逃れようなんて真似、みっ
ともない」


「結婚から逃れるための口実じゃありま
せん。俺は彼女と交際しています。勿論
、結婚を前提にです」



……冷たい。



何が冷たい、って、辻宮のお父さんの目
線が、酷く冷たく、鋭利で。



私に向けられる目線は、さっきまであん
なに優しかったのに……。



「……私が認めるとでも、思っているの
か。失礼だが、彼女は下流階級の庶民じ
ゃないか」


「下流も上流も関係ありません。俺は彼
女を一人の人間として、好きなんです」


「ただ、顔と頭が良いだけの女、結婚し
てなんの得になるというんだ」



さっきから、お父さんの言うことが胸を
突き刺す。



住む世界が違うなんてこと、わかってい
た。



だけど認めたくなかった……。




本当は、向き合わなくちゃいけなかった
のに……。



「結婚相手は損得で選ぶものじゃ無いで
しょう!?好きでもない女と結婚なんて
俺は嫌です」