「まどちゃん 結婚しても会社を辞めたりしないわよね」


玲子先生がに呼び出され 久しぶりに飲んでいると 突然こんな事を言われた


「うーん 正直どうしようか迷ってるの 夫婦で同じ会社にいるのは 

ちょっと・・・ねぇ~」


「なにが ”ちょっと ねぇ~”なの なんの問題もないじゃないの!

絶対に辞めちゃだめ」



そう 辞める理由なんてなんにもない

でも 私の中で何かが引っかかっている




新居は 要のお父さんが持っているマンションの一室に決まった


同居でもいいと思っていたのに 彼のお姉さん夫婦が一緒に住むことに

なったらしい

いま住んでいる家を建て直して 事務所を備えた二世帯住宅にするそうだ




休日の海釣りは しばらくお休み

少しずつ引っ越しを始めた



「どうしたの?」



新居の準備をしながら 考え込んでいた私を 彼が問いただす



「仕事 どうしようかと思って 辞めようか 続けようか悩んでる」



素直に 自分の思いを口にした

要が ため息と一緒に座り込んだ



「玲子さんも心配してた 俺も辞める必要はないと思うけど 

円華 なにに拘ってるのかな 話してくれる?」



そう言うと 床をトントンと叩いて ここに来てと手招きした

彼が ペットボトルのフタをギュッとあけて 一気に喉に流し込む

飲むのも食べるのも 本当に美味しそうな顔をする

そして 中身を半分残して私にくれた



「結婚しても今までと変わらないよ 円華が会社を辞めて 

家に一人でいるより 同じ会社にいた方が 俺は安心だな」


「そうだけど 仕事と家事と 両方こなせるか不安なの 

どちらも手を抜きたくないし 

でも やっていけるか自信もないの それに 同じ会社に夫婦でいるのって 

仕事がしにくいかもと思ったり・・・」


「そうか」



そう言ったっきり黙り込んだ

おそらく 要には 私の迷いは想像つかなかったのだろう



「家事はできるだけ手伝うよ あっ 手伝うって言い方は変だな 

お互い出来ることをする それでどうかな?

夕食だって たまには実家に行ったりしてさ 親だって喜ぶんじゃないかな」


「それがイヤなの!結婚して 妻が忙しいから実家で食事をされたら 

私の立場はどうなるの?

お義母さんだって 息子の世話を放棄した嫁を良くは思わないでしょう」


「そんなもんかな?」


「そんなものよ」