5月26日(日) その8

 勝手にお腹に力が入る。


「ダメダメダメ!! まだいきんじゃダメだよ!呼吸を止めないで、息を吐いて。はい、ふう~」

「ふう~」

「ふう~」

「ほら、M(私)ふう~~~~」



 数名の看護師さんと夫がふうふう言う。


「グッツ……フッツ……、ウ……」

 真似るけど、上手くいかない。


 息を吐くことがこんなに難しいとは思わなかった。





 そんなことやっているうちに、また次の痛みが。


「ンヌッツ、ッグ……」


「ダメ、いきまないよ。息を吐いて。はい、ふう~」


「ンッッグ、フッ……ウウ」


 息を吐くというより、ふうと言うことが精一杯。






「先生まだ来ない? もう出そうだから」

 と、看護師さんが話している。




 もしかして、先生が来ないから産めないの?

 早く産ませて!!




「ヌグッ!」

 もうだめだ。




「もう出そうだね。子宮口も……10センチ開いてるね。それじゃあ、いきんでって言ったら力いっぱい踏ん張って。頑張ろうね。もう少しだよ」


 うなずく元気もない。


 と、また


「ヌグッ!」

「まだだよ、まだ。まだ。……はい、いきんで!!」

「ウッ!!!!!!!」

「もっともっともっと。はい、呼吸して」





 先生が到着。声で男性だと分かる。

 もう、女だろうが男だろうが、どうでもいい。



「切開しますね」

 足元でさらり。

 嫌だと思ったけど、「嫌です」と応えられる状況じゃない。

 この苦痛から一刻も早く抜け出したい。コクコク頷いた。

 ほんと、色々どうでもいい!

 なんでもいいから、とにかく楽になりたい!



 ジガッと切開された感覚があった。

 でも、既に下半身麻痺状態だし、陣痛の苦しみに比べたら、切開なんてたいした痛みじゃない。





 と、








「ヌグッ!」

 まただ!!





「まだだよ、まだだよ~。はい!思いっきりいきんで!!」

「フン、グッ!!!!!!!!」

「もうちょっと頑張って! 力込めて!」

「ングッ!!!!!」

「はい。呼吸してね。もう少しだよ~」






 また!



「ヌグッ!」

「はい、いいよ、いきんで!!!」


「フン、グッ!!!!!!!」

「もっと! 旦那さん、奥さんの両腕抑えて! 奥さん、こっち見て!!!」



 夫が私の両腕を掴んで、背中を前方グイと押す。

「ほらM(私)、頑張れ!」

 立ち会い出産で、男の人はオロオロ見てるだけとよく聞くけれど、夫の場合憎らしいくらい堂々としている。






「ングゥ~~~~~~~~~~~」


「もっともっともっと! 頑張っていきんで! もっと!!」

「グゥゥ~~~~~~~~~!!!!」

「頑張れM!」


 自分が白目を向いているのが分かる。たぶん恐ろしくホラーな顔をしている。

 ドラマで登場する出産シーンはやっぱりフィクションだった。美化されまくりだった。

 出産って、かなりグロい。めちゃくちゃ苦しい。





 と、






 なんか、出た。









 やたら激しい、甲高い鳴き声。


「イヤーーー! イヤァ!!!!」

 ふんぎゃあではなく、イヤーと泣いている。



「ほらぁ、生まれたよ。男の子だよ。元気だね」


 髪の毛がくるくるで身体中ベタベタの小さな生き物が、まさしく火が付いたように泣いている。





 2013年、5月26日(日) 午後2時32分。 妊娠37週1日。

 体重2292g 身長42.8cm

 私は、「イヤー」と泣く男児を出産した。






 最初にぼやっと思ったこと。




(ちゃんと人の形してるんだな)