それから一安心した女性は、バーダーに目を向けた。
すると、今だ頬に手をあてたまま一向に動きを見せないバーダーに、不安そうな表情を浮かべた女性は優しく声を掛ける。
「すみません……。お父様のことを心配するあまり、強く叩きすぎてしまいました。頬は痛みますか?」
女性は心配そうにバーダーの顔を覗き込む。
その大きな瞳と、困ったような愛くるしい表情に、頬の痛みとは違う衝撃をバーダーは受けた。
――その衝撃は、脳天を突き抜け身体中を走り抜けると宮殿の長い渡り廊下を伝い城下町を過ぎて山を越えて海まで辿り着くと更に遥か彼方へと見えなくなり、星になった。
とにかく、稲妻が落ちる程の物凄い衝撃を受けたのである。
今まで近付く女性はどれも媚びを売るような者ばかりであった。
だが、この目の前に立つ女性は違うとバーダーは直感した。
つまり、凜とした態度で叱り付ける姿と愛くるしいその表情に、バーダーは一瞬で心惹かれてしまっていたのだ。
