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「先生はなんて?」

「ああ、まあ、細かいとこ注意された。

だけど、後は楽しんで弾いてきなさいって言われた。」


「そう、来てよかったでしょ?これで来週は安心して望めるわね?」


「そうだね。」


勝手だよな、って思う。


安心するのは母さんで、

ちゃんとできるか不安なのも母さんだから。


実際のところ、俺はどっちでも良かった。

確かに先生が手を入れてくれると、

全体にスッキリするし、気がつかない部分がより鮮明になる。


でも、それがなかったとしても、コンクールはやって来るし、

僕はそれなりには弾けるのだから大して困らない。


母さんが俺の機嫌の悪さを気にしているのはわかっていたけど、


フォローする気にはなれない。


今日という日が俺と千葉にとって残り少ない大切な日だってことは


紛れもない事実で、千葉が寂しい思いをしているのかと思うと、


居ても立ってもいられなくて、イライラしてしまうのだ。