「千葉、楽譜…持ってきた?」


「あ…うんでも弾けないでしょ?」


「折角だし、打ち合わせだけでもやんね?

 昨日結局しなかったし、

 楽譜にメモしてくれれば、その通りに暗譜しとくし。」


「ほんと?ちょっと待ってて?」


通学バッグの中からファイルを取り出す。

さすが女子だ。

きれいに整理してあるみたいですぐ出てくる。


「あ、俺もあったほうがいいな。え~っと…」


カバンの中から、グシャグシャの楽譜を取り出すと、

千葉はくくっと笑って、


「ファイルくらい入れたらいいのに?」


「うっせ~見られりゃいいんだよ。どこ変えたいの?」


「うん、ここと、ここと、それから…」


「待って、ここな?

 それからここ、ああ、

 この間言ってた変調前のフォルテね。」


「そう、あと最後ここで伴奏が切れて、コーラスだけになるけど、

 あたし的にはあったほうがいいと思うんだよね。

 しかも終わったあともワンフレーズぐらい

 伴奏で余韻を残したい。そういうの出来たりする?」


「そう?わかった。」


「できるの?」


「俺を誰だと?」


「のせっちでしょ。」


千葉はくすくす笑う。

緊張がほぐれていつものキラキラした笑顔。


釣られてぼくも笑って、

また懲りずに口に出る。


「俺やっぱ千葉が好きだ。」