「ちずちゃん、なんで泣いてるの?」


なんだかモヤが掛かって見えない幼稚園くらいの男の子。


でも、この声は凄く聞き覚えがある。



「別に泣いてなんかないもん」


ボロボロに泣きじゃくりながらも尚強気な女の子。


精一杯顔を背けているけど、泣いてるのは誰が見ても分かる。



「ごめんね、僕のせいで泣いているんだよね?元気出してよ、ちずちゃん」


よしよし、

なんていっちょ前に女の子の頭を撫でた男の子。



女の子は自分より小さい背の男の子に頭を撫でられたが気にくわなかったのか、泣きながら顔を上げて、ムスッと男の子を睨み付けた。



「…たっくんのばか。嫌い」



「千鶴?ダメでしょ馬鹿とか嫌いなんて言ったら。

竜騎君は今日からアメリカに行っちゃうんだから。ちゃんとお別れ言いなさい」



これは―――お母さんの声だ。


「ちずちゃん、ごめんね。僕、大人になったら絶対日本に帰ってくるから。ちずちゃんの側にずっと居るから。

――だから泣かないで」



「やだ、今居てよ!」


「…それは」


「千鶴!竜騎君を困らせちゃダメでしょ。まったくもう」


「ちずちゃんママ、僕がちずちゃんを泣かせたから、僕が悪いんです。ごめんなさい」



「竜騎君は悪くないのよ?

それよりアメリカ行っても頑張ってね。ほら、お母さん達待ってるよ。行きなさい」


「うん。
ちずちゃん、バイバイ」


男の子が手を一生懸命に振っている相手は女の子なのに、女の子はムスッとした顔のまま手を振ろうとはしなかった。


そうして手を振り続けている男の子を乗せて、車は遠くへと走り去っていった。