うさぎが扇子を手にして舞うように振るうと、視界一面が青い炎で覆われた。

逃げ場をなくした『闇』が、声無き声を上げながら消滅していく。

炎を見つめる彼女の瞳に迷いはない。
どこまでも透き通るルビー。

『人間はいつだって姫に守られているのに、いつだって姫を傷つける』

少年の姿をしたドラゴンの言葉と、あの夜の哀しみに満ちた赤い色を思い出す。

彼女も傷を負っている。

なのに…

真っ直ぐに前を見ている。

限りなく優しく微笑む。

なれるだろうか、彼女のように…いや、違う。

彼女と肩を並べて立てる男に。

これは、俺の心が望むこと。
やっと動き出した裸の心が。

水原は片手でネクタイを緩めた。

本当は、スーツもネクタイも嫌いだ。

早く大人になりたかっただけ。

大人になれば、迷いも消えると思っていただけ。