「川堀、です」 貰ったコートの暖かみが、口を緩ませ、声を出させる。 もう、手遅れだ。 彼女は、私を覚えてしまったのだから。 「私も、あなたを忘れませんよ」 一生をかけたあなたを、死んでも忘れない。 彼女の優しさ――皆に振り撒かれるそれでも、このコートは自分だけの物だと川堀は笑う。 久々に、笑えた気がした。 「ああ、次はいつ会えるか分からないが、互いに覚えておこう。そうして、少しは元気になるんだぞ」 あなたが笑ってくれるから、私も笑いたくなるんだ――