脱力系彼氏

「昇ちゃん、バイトは?」

「ああ、夜」

欠伸をしながら椅子に座る。
……さっき起きたのかな?


「何で、笑ってんの?」

「え?」

昇ちゃんは眠そうな黒い目に、あたしの顔を映していた。

言われて気づいた。あたし、まだニヤけていたのか。そんな自分が可笑しくて、また小さく笑ってしまった。昇ちゃんは、不思議そうにあたしを見ている。


「あのね、昇ちゃん」

「ん?」

にこにこしながら、棚の1番上の引き出しを開ける。そこから、1冊の雑誌を取り出した。

「じゃーん!」

「……」

あ、嫌そうな顔してる。

「……何?」

嫌だけど聞くんだ!

笑いそうになりながら、あたしは雑誌の表紙を捲った。

「旅行雑誌。昨日ね、冴子に買ってきてもらったの」

見て分かっていたくせに、昇ちゃんは更に怠そうな顔で雑誌から目を逸らした。

「夏休みは病院で全然遊べなくなっちゃったからさ、秋休みに旅行行こうよ!」

「あー……、だりぃ」


やっぱりそれか!


「頑張って足治すから!」

「めんどくせー」

「行こうよー」

「やだ」



やっぱり、あなたはあたしの期待をことごとく裏切っていく。


だけど、愛しくて仕方が無い。

愛せずにはいられない。


あなたは、世界で1番愛しい、


あたしだけの脱力系彼氏。



「ね、お願い」

「……あー……」


でもきっといつか、あたしが面倒臭さなんて吹っ飛ばしてあげる。ううん、近い未来の話。


「めんどくせー」


そう言いながらも、面倒臭がらずに毎日病院に来てくれる現在って、大きな大きな進歩でしょう?



―脱力系彼氏―