「あっぶねぇな、じゃあ俺仕事に戻りますね」


「うん」



 一条がフランセルに行ってる間、奈央の精神状態は不安定だった。



 まるで戦に駆り出された想い人の身を案じる女心のようだった。




『馬鹿なこと考えるのやめよ……』




 奈央がまな板の上に置いてあったナイフに手を伸ばしたが、そこにあるはずのグリップを掴む感触がない。



「……え?」



 下を見ると奈央の心臓が一瞬止まった。



 奈央のシェフナイフが床に落ちている。


 刃先の部分から床を突き刺すように落ちたのか、一センチ程欠しまっていた。


 先程ぶつかった弾みでまな板から落ちたのだろう、そんなことにも気づかなかった自分に奈央は落胆した。