「馬鹿、何ってんだよ、一条シェフのレシピが読めないと仕事になんないぞ?」


「だって……」



 一条は恐る恐る申し出た新人を一瞥すると、奈央に向き直った。



「奈央、こいつに包丁を握らせる前にaアからZゼトまで叩き込んどけ」


「は、はい」



 昨日の気まずさなど微塵も感じられない毅然とした一条に、奈央は意表を突かれて思わず背筋を伸ばした。



『なんだ、気にしてるのって私だけだったのかな?』



 チラリと一条に視線をやるとふと目が合った。

 奈央はいつもならにこりと笑顔を返すのに、慌てて視線を外して成瀬にレシピの読み方を教えるフリをした。