どこをどう通ったか帰り道の記憶が曖昧だった。


 奈央はマンションの自室に入ると、まるで自分の心情を映し出しているかのような薄暗い部屋に奈央は吸い込まれていった。




 恋愛は実ったら実ったで甘い蕩けるような蜜を吸うことばかりじゃない。



 どんなに毅然とした人でも臆病になる、欲張りになる、相手にのめり込めばのめり込む程貪欲になる。




 奈央は恋愛経験はさほど多くはない、けれどいつも自分自身を見失わないように努めてきたつもりだった。




『完全に私やられちゃってるわ……』



 一条の一言で深く傷つき、落ち着かなくなる。



 いつも自分の事を見ていて欲しくて堪らなかった。


 桐野と付き合っていた時、こんなに傷ついたり動揺したりしたことがあっただろうか、奈央は桐野との遠い記憶を呼び覚ましていた。




『俺は面倒くさい女は嫌いなんだ、じゃあな』