「あ、待って、一条さんっ」



「待てない、エレベーターの中でだって我慢して、これ以上俺に何を我慢しろって言うんだよ」




 一条の兄が総支配人を務めるローザンホテルの最上階に、一条がリブインしている部屋がある。




 部屋のドアを荒々しく開けたかと思うと、目の前の不夜城の夜景を眺めるまもなく二人は身体を絡め合いながら転がり込む。





 ベッドに押し倒されるとそのまま両手をベッドに縫い付けられて、一条が奈央の唇を貪った。



「んんっ! い、一条さ……」




「お前、なに不安になってんだよ……あんな顔して、俺に気づかれないふりでもしてたか?」



「……え?」



 一条の動きが止まって、うっすら目を開けると一条の瞳が自分を見下ろしている。


 奈央はその時、美人な友人に少しでも嫉妬していた自分を恥ずかしく思った。


 ましてや、そんな懸念が一条に見破られてしまうなんて、大人気ないにも程がある。



「一条さん……」




「そんな顔すんな……俺がこの手で可愛がってやりたいと思うのはお前だけだ」




 一条の温かな手が奈央の頬を包む。


 奈央はその手に自分の手を重ねると、じんわりと温和な温もりが伝わってきた。


 奈央はその温もりを信じて、今は全て一条に身を任せた。