「あの、一条さん、ありがとうございます」


「何がだ?」



 奈央は斎賀を席に案内して、すぐに一条のところへ戻った。


 けれど、なんとなく不機嫌なのは気のせいだろうかと顔色を窺った。


「一条さん? あ、あの……」


「レシピ貸せ」


「え?」



 目の前にぶらぶらと出された手に催促されて呆然としていると、しびれを切らせたように一条が舌打つ。



「あいつのメニューは俺が作るから、お前は一切手出しするな」



 ギロリと鋭い視線を向けられて、奈央は思わず気圧されてしまった。



「ど、どうしてですか? 紗矢子の恋人だったら……それに、一条さんこのレシピ一回も作ったことないじゃな―――」


「……俺を誰だと思ってる?」



「そ、それは……」



 きっと一条の頭の中には奈央が作ったレシピの内容が既にインプットされているのだろう、奈央は躊躇していたが、一条の洗練された手際の良さをみたら彼に作れないものなどないように思えてきた。