その低い声音に奈央の緊張が走る。


 もしかしたら一条は何か思うところがあって怒っているのかもしれない……。


 奈央は息を呑んで一条を見上げた。


 斎賀がその呼び止めに振り向くと、一条は腕を組みながら重いため息をついた。



「……食っていけ」



「え?」




「だから、あんたの女が邪魔した究極のクリスマスメニュー、食して責任取れ」




 斎賀はその言葉に逡巡していたが、最後には観念して苦笑いを浮かべた。




「はい、その通りですね。一条さん、ありがとうございます」




 一条はなんとなくこの男が憎めなかった。



 自分の女のために自ら泥をかぶりながら身を呈している姿に共感を覚えた。




 だから、なんとなくそのまま返してしまうのが忍びなかった。




「ほら、行くぞ、仕事だ。ボサッとすんな」



 そういうと一条はシェフスカーフを締め直した。