「奈央、今から牛肉の掃除するから手伝え」



「わかりました」




 肉の掃除とは、部位ごとに切り分け、余分な脂肪を取り除く作業だ。



 一条は精肉問屋から切り分けられていないそのままの肉を仕入れているため、自らブッチャーナイフで解体している。



 すでに切り分けられて小売りされているものを度々発注するより、一気に塊を仕入れたほうが効率もいいのも理由だった。



『肉を裁く一条さんの野性的な精悍な顔立ち……素敵』




 ナイフを荒々しく肉に刺したかと思えば、繊細な手つきで切り分けていく。




 奈央はこの作業の補佐のために肉の部位を精肉部はもちろん内臓部まですべて覚えた。




「おい、お前なに生肉見てニヤニヤしてんだ? 気持ち悪い」



「ッ!? ち、ちちち違います! ちょっと……」




「ちょっと? なんだ?」




 奈央の言わんとしていることがわかっているかのように一条はニヤリと笑って、再び肉を裁き始めた。