「先生、なんだか顔色が優れないようですけど……」



 体調不良をわざと思い出させるような紗矢子の言葉に一条は小さく舌打つ、今は具合が悪くなっている場合ではないのに、身体の倦怠を拭いきれない。



「熱があるんじゃないですか?」



 ふいに紗矢子は一条の額に手を伸ばして掌を宛てがった。


 額にひんやりと背筋まで凍りそうな感覚が一条の全身を襲う。



「ほら、やっぱり……」



 そう言いながら紗矢子の口元は緩く笑みを浮かべていた。



「私と、コンテストに出ましょう……」



「……」



 何度も眩暈を振り切って正常を保とうとするが、紗矢子の吸い込まれるような瞳に搦め捕られると金縛りのように身動き一つできなかった。