「俺たちなら、大丈夫だ……ごほっ」



「一条さん? あの、大丈夫ですか?」



「あ、ああ……水が喉につかえただけだ」



 空気が乾燥しているのか、喉に不快感を覚えて堪らず咳き込んでしまった。


 コンテスト前に風邪をひいたなど、口が裂けても奈央には言えない。


 一条はそう思うとつい咄嗟に嘘をついてしまった。



「コンテストは夕方からだ、お前は明日休みだろ? 俺は仕事が終わったらその足ですぐにアルバンホテルに向かうから、そこの控え室で待ち合わせよう」


「……あ、あの」



「ん? なんだ?」



 奈央は一瞬言葉に詰まった。


 自分は一体何を言い出そうとしていたのか……。




(今すぐ会いに行ってもいいですか?)




 一条の声音があまりにも優しくて、思わず口をついて出てしまいそうになった。



『だ、だめだめ……』



 自分から仕事に集中するように言った手前ここで、一条に甘えるわけにはいかなかった。



「なんでもないです……」



 奈央は言葉を濁してその場をやり過ごした。