そんな話し一度も聞いていない。

先日、紗矢子と食事に行った時も一言もそんな話は出なかった。




「それがさ、神崎が取引してるホテルでこの前話したクリスマス企画のコンテストがあるんだ」



「紗矢子の取引先で?」




「まぁどんなワインを出してるか俺も興味ある、そのコンテストと一緒にワインも試飲できるから、物が良ければうちで扱ってもいいと思ってる」



「……そう、ですか」




 喉の奥から振り絞って出す声が掠れて、今にも消え入りそうだった。



 奈央は耳の奥で一条の声を聞きながらグラタンのレシピを眺めていた。


笑い合いながら一条と一緒にいる紗矢子を想像するだけで拳に思わず力が入る。


どす黒い感情に飲み込まれそうになって奈央は我に返り、話題転換する。



「紗矢子、結構研究熱心なんですよ、この前も一緒に食事した時、これはどうやって作るんだとか、味付けはどうするんだとか聞いてきて……」



「へぇ、そういえば最近、神崎とよく出かけてるよな」