「私です、いることはわかってるんで居留守使っても無駄ですよ」



 返事をする前にドアが開かれ、おじゃましますと一言つぶやくと、羽村が部屋に入って来た。



 勝手にドアを開けることなど日常茶飯事で、今更咎めるのも煩わしかった。




「今日はなんだ、お前からわざわざこんな時間に訪ねて来るなんて珍しいな」



「まぁ、私も暇ではないのですが……ああ、すみません車なんで結構です」



 一条はワインを勧めたが、羽村は軽く手で制して遠慮した。


 その代わり煙草を一本失敬すると、テラスに出て火を点けた。



「寒くなりましたねぇ……もう今年も終わりです」



「……ああ」



 一条は羽村のもったいぶった態度に少々苛付きながら、自分も煙草を咥えてテラスに出た。