本当のキミ

俺が何も言えないでいると、
彼女、早野さんが口を開いた。

「これから、寮に行かれるんですよね？
　…男子寮に」

と言った…
俺は足から崩れ落ちそうになった。

踏ん張って、唾を飲み込み

『なんで、そんなことまで知ってるんだ』

今にも転げ落ちそうなのがばれないように
真剣な表情を作った、うまく作れてるだろうか…

早野さんは、俺を少し見つめ返し
何食わぬ顔で
「昨日、つけたんです。」

と言ったから、
びっくりして
『…ッな…』
と動揺している声を出してしまった。

また冷静になるために
無理やり唾を飲み込んで

「なんでそんなことした。何が目的だ。」
と強気の発言をした。

すると彼女は、わざとらしく考えるしぐさをして
「んー、そうですねー…」

俺に視線を合わせ、ニヤッと笑った。
そして、
「あなたが何故こんな手の込んだことしているか、
　教えてくれたらいいですよ？」

え？
そう言った彼女に少し驚いていた。

ここまで知っていて知らないのか…

あ、でも、まあ知られることが、
まずないだろうと思い直した。

そして
彼女の顔をみて

自分が今声に出していたことにやっと気づいた。

思ったこと口にしちまう…
これで何度ばれそうになったか…
まあ、そんなことはいいんだけど…

俺は、彼女をじっと見つめて
しばらく待っていたが、

相手が、何か言う様子も諦める様子もないし…
それよりも、ここまで知られてるんだ…

俺には、ここまで知られて言い訳できる自信がない
それに、何かすべてを見透かされるような
さみしそうな彼女の瞳が俺に諦めさせた。

俺はふいっと彼女から視線を外し
少しでも明るいベンチをさっと探し

『何が知りたい、ついてこい』