引っ越し業者のトラックが去って行く。
 美里と美鈴、そして春海がそれをじっと見つめている。
「信君のことは、残念だったわね…」
 美里の声が低く吸い込まれていく。
「いえ、いつかはこうなるのではないかと覚悟していましたから…」
 春海は気丈に応えた。一晩中泣いていたのか、その目は腫れ上がっている。
 美里は娘から事の次第を聞いていた。だが彼女はそれを何の疑いもなく受け入れていた。
「ねえ、あなただけでもここに住まない?」
 美里はそう申し出た。
 これまで信の守護者として行動してきた春海は世の中から隔離された生活を送ってきた。そのために頼れる人一人いなかった。この地を去ることによって今度は本当に孤独な人生を歩むことになる。
 しかし彼女は美里の申し出を丁寧に断った。
「あんな事があったから、私ももうここには居られません。心配していただいてありがたいのですが、これも私の運命ですから…」
 そう答えた春海の声は寂しかった。
「さあ、もう行かないと…」
 二人に背を向けて春海は歩き出そうとした。
 その背中に美鈴が声をかけた。
「あの、手紙をもらえますか?」
 その言葉に春海は振り返って微笑んだ。
 その顔には微かに希望の色が浮かんでいた。