二人の犠牲者を出した事件は意外なところから進展を見せた。
 聞き込み捜査の結果、彼女たちがストーカーに悩まされてきたことが浮上してきたのだった。そして美しが丘所の被害届を調べたところ該当する物が出てきたのだった。その被害届には加害者の名前が記載されていた。それが二つとも「相馬祐司」だった。
 二つの事件が相馬祐司でつながった。操作本部内の緊張が一気に高まった。相馬祐司を重要参考人として事情聴取をすることと決まった。
 早速捜査員が相馬の部屋に向かった。彼の部屋は五階にあるので窓からの逃走はないと踏んで捜査員達は入り口を固めてチャイムを鳴らした。
 だが、何度ならしても相馬は出てこなかった。耳をこらして内部の様子を探ると人が居る気配はあった。
 一人の捜査員がドアノブに手をかけてゆっくりと捻ってみた。それは何の抵抗もなく回っていく。
 鍵はかかっていない。
 彼らは互いに目配せをして頷きあった。
 先ほどの捜査員が再びドアノブを回し扉を開けていく。
 別の捜査員が相馬の名前を呼びながら中に入っていく。
 薄暗い部屋の柱の陰から一人の男が現れる。相馬祐司だ。
「相馬さん、いらしていたのですか。浅田美緒さんと金井美砂さんの件でお話を伺いたいのですが…」
 中に入った捜査員が言った。
「それは任意ですか?」
「はい、ですが私たちとしては是非ご協力戴きたいと思っております」
 ドアを開けた捜査員が中に入ってきて言った。
「任意なら別に警察に行かなくてもいいんですよね?」
「ですが、お断りになるとあなたにとって不利なことにもなりかねません」
「わかりました。少し待ってもらえますか?」
 そう言うと相馬は捜査員達に背中を向け、壁に掛けてある薄手の上着に手をかけた。そう、手にかけたように見えた。
 次の瞬間、相馬は捜査員達の方に振り返り、両手を彼らの方に伸ばした。そのとたん、入り口近くにいた捜査員がまるで空気の塊を受けたように後ろに吹き飛んだ。
 彼の体がドアにぶつかり激しい音を立てる。
 捜査員の悲鳴が響く。
 彼の体はフェンスを越えて落下していく。
 ドサッという鈍い音が相馬の部屋に届く。
「貴様!」
 残った捜査員が相馬に飛びかかる。
 相馬はその力を利用して捜査員を床に叩きつける。
 受け身を問う暇のなかった捜査員は動くことが出来ない。
 そこへ是体重をかけた相馬の肘がみぞおちのところに入る。
「ぐっ…」
 捜査員は押しつぶされたような声を発して動かなくなった。
 そこへキッチンから包丁を取り出してきた相馬が捜査員の体にそれを突き立てた。
 相馬の心は喜びに満ちた。
 なんと心地よいことなのだ。生命(いのち)を奪うということは…。
 血の匂いが広がっていく中、相馬はこれまでにない喜びに包まれていった。
(さぁ、もう一度、ゲームのやり直しだ)
 恍惚の表情の中、相馬は部屋を後にした。