不遜な蜜月


部長に渡されたファイルを、真緒は複雑な面持ちで見つめる。

体調が芳しくないので断りたいが、頑張らないと、という意識から断れない。


「よろしく頼むね」

「はい。・・・・・・ゴホッ」


咳をすると、彩子がこちらへ視線を向けた。


「断ればよかったのに。具合悪いんでしょ?」

「大丈夫。熱はないし」

「仕方ないから、手伝ってあげる」


彩子はファイルを手に取ると、笑ってみせた。


「いいの?」

「残業までは付き合えないけどね。と、その前に飲み物買って来よう」


彩子は立ち上がり、部署を出る。


「! な、何ですか?」


出たところで、タイミングが良いのか悪いのか、一臣と出くわした。


「香坂さんは、風邪か何かですか?」

「は?」


唐突な質問に、彩子は首を傾げる。

この間から、彼は随分と真緒を気にしているが―――。


「熱はないそうですけど、咳してるし怠そうだから・・・・・・風邪の引きはじめ、だと思います」