彩子の話を聞いているだけで、お腹が空いてくる。
真緒は自然と早足になりながら、着替えに向かった。
エントランス、理人は思わず足を止めた。
本当は昼間に会うはずだったのだが、相手の都合で今から会いに行く。
「社長?」
立ち止まる理人の視線を、玲奈が追う。
その先には、真緒の姿がある。
笑顔で友人と話しながら、会社を出ていく真緒。
「社長、遅れますわ」
「・・・・・・あぁ」
玲奈に急かされるようにして、理人は歩き出す。
あの夜以来、彼女の笑顔を見ていない。
傷つけて、悲しませてばかり。
妊娠さえしなければ、一夜の過ちですべてが済んだのに。
(考えたって意味はない。意味はない、ってわかってるけど・・・・・・)
俺は、彼女の人生を狂わせたのだろうか?
23歳の真緒。
妊娠も結婚も、考えていなかっただろう。
その人生に、無理矢理割り込んだ気分だ。


