彩子の視線を、社長―――理人も追う。
デスクに座り、ファイルを開いて髪を一まとめに結う後ろ姿。
「香坂 真緒、か」
確かめるように呟いて、理人は再び歩きだす。
その後に、男性秘書が遅れることなく続く。
「なんなの?」
社長の背を見送り、彩子は仕事を始める真緒の背を見つめる。
「金森、暇なら仕事をしてくれるか?」
「はーい」
苦笑する部長に、彩子は笑顔を返し、自分のデスクへと戻った。
時計の針が12時を少し過ぎた頃。
真緒は区切りの良いところで、仕事の手を止めた。
「彩子、お昼は?」
「いつもの定食屋で済ますつもり」
大きく伸びをして、彩子はファイルを閉じる。
「今日の日替わり定食はアジフライのはず」
社内にも食堂はあるのだが、混みすぎていて落ち着けない。
ふたりは落ち着けて美味しいご飯が食べれる店を何件か探し当て、今はそんな店をその日の気分で選ぶようになった。


